人生を変える一言は

高校2年の時。
クラブ活動に明け暮れ、全神経を音楽に集中させすぎて、それ以外のことを全て放棄していた時期がある。
授業中、起きていたことは、ほぼ一度も無いと言ってよかった。
そんな、ある何気ない休み時間のこと。
後ろの席の、さして親しくも無い、かといって別に仲が悪いわけでもない、単なるクラスメイトの男の子が、ふとこんなことを言った。
「お前、ほんま、ずっと寝てるよな。」
彼は、大して意図して言ったわけでもなく、ただ事実を述べただけで、言い方も、特にバカにするわけでもなく、ほんとに、ぽろっと口にした、という感じだった。
実際その前の授業も最初から最後まで寝倒していたし、そんなことを言われるのも、別に慣れっこだった。
が、その時に限っては、なぜか、カチン、と来た。
「・・・・・そやね。・・・いや、別に起きてようと思ったら起きてられるけど。」
そうするとその子は、ちょっと面白そうに
「へぇ?ほんまかいなー。ほんなら次の授業起きといてみぃや~。」と
軽く言った。別に嫌味な言い方ではなかった。
これがまた、私の心の深いところを刺激した。
「起きてられるよ、そんなん。これから授業、寝ぇへんわ。」
「ははは!ほなそないしてみー楽しみやわぁ。」
それ以降、私は本当に、ただの一度も、授業中寝る、ということをしなかった。
彼は、それを言ったことすら、下手したらその日に忘れているくらいのことだったと思う。
しかし、化学が好きで、学問も好きだ、ということを気付かせてくれ、その先の道の最初の道しるべになったのは、その彼の一言が、最初だった。
その頃授業を放棄していたのは、高校に入る時のクラス分けのテストが、自分としては、あまりに出来なかったのも一つの原因だった。解けたのは半分、正答したのはそのうちの3割行ったかどうか。
やっぱり各中学の精鋭が集まる学校は違う・・・最初の挫折だった。かなわない・・・・
ところが先生曰く、そのテストは、正答率もさることながら、その答えを導き出そうとする過程を見るテスト、という要素も強かったそうだ。
高3の秋に、クラス分けのテストの順位はだいぶ上の方だった、と聞かされたとき、先生に思わず「そんなん、言うてくださいよ!」と言ったことがある。
そのときの先生の答え
「順位で知るよりも、自分でどれくらい手ごたえがあったか、ということが自分で分かる方が大事。
出来たなら出来た、で、そのまま居座るかより努力するか
出来ないだったら出来ない、と思ったときも、もうアカンわ、と諦めるか、少しでも、と努力するか
どっちにしたって、その人次第やろ。」
===
自分の立ち位置は時として、周りとの相対比で、見失うことがある。
狭い視界や、閉じた世界での自分の位置と、外の世界、全体として見たときの、自分の位置。
思っているより、自分は上の方だったり
思っているより、自分は下の方だったり
それを出来るだけ客観的に見ようとするけれど
その客観の視界の前に大きく立ちはだかるのは
「自信」という名前の 自身の壁。
===
今回の引越しは、友人が何気なく言った一言が、私を大きく動かした。
それまでの視界の狭さ、閉じこもっていた世界。
その人は、私のことについて言ったわけでもなく
何か意図して言ったわけでもない。
その人自身のことを、言っただけだった。
その友人から感じることは、いつも同じ。
自分が帰るべき場所を知っていて、その場所をちゃんと持っている。
そういう人は、強い。
帰るべき場所が分かっていれば、より遠くへ旅立てるし、冒険も出来る。
根の無い草は、自由という名の下に、ただ頼るところなく、流されるだけ。
“自由”は時に、孤独の足かせと、囲いの無い檻で、自由の国の囚人にする。
その友人が何気なく言った一言が
そうか、私にも、帰る場所があっていいのだと、気付かせてくれた。
ずっと、帰るべき場所を探していた気がする。
どこかで、帰ることは、負けることと、思いながら。
囚人でいることを分かりながら、囲いの無い檻に気付きながら
帰りたいと、願いながら
・・・
帰ろうかな、と思った夜の翌朝。
不思議なことに、帰りたい土地に住む懐かしい人から電話があって
その人に言った言葉が、おそらく自分の真実だったと思う。
帰りたい、という言葉自体、自分に禁じていた気がする。
そしてそれを聞いたその人は、明るい声で、即答してくれた。
「お帰り。帰っといで(^-^)」
10年以上も、聞いていない言葉。
ただそれだけの言葉に、涙が止まらなかった。
ずっと誰かに、そう言って欲しかった。
たったこれだけのことに気付くのに、こんなにかかってしまった。
ただこれだけのことが書けるのに、こんなに遠回りしてしまった。
帰る場所が出来たら
もう少し、強くなれる気がする。
その友人の一言は、どこにでもある言葉だし
私に言った言葉でもない。
その人も、もう言ったことすら、忘れているだろうけれど
きっと一生、忘れることはないだろう。

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