筆致

筆致、という言葉が好きだ。
筆致=書画や文章の書きぶり。筆の趣き。

〜〜〜
来月初共演するmaikoさんとお互いに曲を書くに当たり
それぞれの趣味趣向を聞き出した。

名前は目にしていても、まだ読んでいなかった作家や
見ていなかった映画が
知った人の口から出ると、急速に手元に近づいてくる。

聞いた本を探しながら書店を歩いていると
「使われなかった人生」というタイトルが
目に飛び込んできた。
偶然か必然か、その書き主は
maikoさんの口から出ていた本の作家、沢木耕太郎氏だった。
聞いていた本とは違ったが

そのタイトルに惹かれ手に取り
帯を眺めていると
”抑制の利いた筆致で描く、全三十編の映画評”とある。
この「抑制の利いた筆致」というフレーズは
一気に心をつかんだ。

ほぼ条件反射的に読みたくなるキャッチコピー。

〜〜〜
長い間、本を読むのは電車の中、という習慣だった私は
車中心の生活になってから
本を買ってもいつ読んでいいか分からずタイミングを逃し
積ん読、で終わっていることが多かった。

のだが
今の部屋に引っ越してきて
前と同じ部屋(というか隣なので反転している)なのだが
家具の配置も照明もファブリックもがらりと変えて
雰囲気が変わったせいなのか
本を読み、音楽を聴く時間が
圧倒的に増えた。

本を読む時間が増えると
ちょっとした空き時間や、外でお茶を飲んでいる間も
本を読むようになるもので
部屋の雰囲気がここまで習慣に影響を及ぼすものなのかと思うと
空恐ろしい。

隣に移っただけなのに、前とは全然習慣が変わった。
前の部屋ではほとんど浸かることの無かった風呂も
女子っぽくシャワージェルなど買って
バブルバスに出来るようにしてみたら
それが楽しくてよく入るようになった。

ひとしきり風呂を楽しんだ後
イスタンブールで買ったトルコランプを付けて
ソファに体を沈め、沢木氏の本を手に取る。
「あの雨の朝、私は会社に入るのをやめることにした」

〜〜〜
これから使おうとする人生と
使わないでおこうとする人生の選択点は
そういった、さして特別でもない瞬間に訪れる。
会社辞める詐欺、彼氏と別れる詐欺、と
揶揄したりするが
辞める、別れると騒いでいるうちは実行されることは無い。

鼻息の荒い意気込みよりむしろ
美容院で雑誌のどうでもいい記事に目を通している時にふと
「明日、辞表出そう」とか、そんな程度の静かなものだ。
熟した柿が樹からぽとり、と、落ちるような。

〜〜〜
誰にでもある、使われなかった人生。

あの時、別れていなかったら
あの時、会社を辞めなければ
たら、れば、たら、れば

後悔するものもあれば
後悔の無いものもある

その時、後悔しない!と選択したからと言って
後々悔いることが二度と無いなんてことは無い。

後悔はしてません、という言葉の中には
既に後悔が含まれている。

人生など、後悔ばかりなのかもしれない。

しかし
後悔の無い人生もまた
趣が薄い。

〜〜〜
沢木氏の、抑制の利いた、一歩引いた筆致が好い。
まだ第一章を終わったところ。
読み進むのが愉しみだ。
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