金木犀の風に

昼間の用事が早く終わり、少しゆっくり愛犬の香雪(こゆき)と、夕暮れの中を散歩した。

ほぼ毎日、散歩に連れていってやれてはいるが、日によっては急ぎ足でとりあえずしか行けなかったり、予定が立て込んだり天候不順で行けなかったり、という日もある。

そんな日が続いても、少し退屈そうな顔をしたりはするが、気分を荒らすこともなく、いつもじっと、かなり長時間の留守番でも、私の帰りを待ってくれている。

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散歩の途中、郵便局で用事を済ませる間、外に短くつないで待たせておいた。人も車も結構通るが、人が大好きな香雪は、そこでじっと動かず、吠えもせず、じぃっと待っている。

そして用事が済んで出て来た私を見ると、待ってたよ〜というような表情で、少し頭を下げて尻尾をぷるぷると振る。
・・・昔飼っていた犬も、こんなんだったな。。。

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小学校の頃、飼っていた犬がいる。名前はレナ。真っ白な柴犬、という感じの雑種、今でいえば某携帯電話会社の”おとうさん”を、もっともっと細く小さくしたような犬で、女の子だった。

吠える、ということを知らないのか、というほど吠えない犬で、誰に対してもフレンドリーだけど控えめ。全く番犬にならなかった。
真っ白な体に、漆黒の瞳と鼻がかわいらしい犬で、私が学校から帰るのを、門の下から鼻だけ出して待っている。姿が見えると、頭を下げて、ふるふる、と黙って尻尾を振って迎えてくれた。

秋の夕暮れ、金木犀の匂いに触れると、いつもレナのあの仕草を思い出す。
二度と取り戻せない、痛みとともに。

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涼やかな夕映えが、下町を包む。
小学生たちの無邪気な声、帰り道を急ぐ女子高生の自転車、帰り支度のサラリーマン、買い物を急ぐお母さんたち、古い長屋の前で井戸端会議に花を咲かせる長屋の住人たち、、、

今住んでいる街は、職住が混在している。会社のビル街を一本入ると、古い長屋や一軒家と、真新しいマンションが交互に立ち並び、またその隣の通りでは、居酒屋や料理屋が軒を連ねる。
ぶらぶらと、香雪を連れて歩いていると、金木犀の風に包まれた。
去年は、知らなかった香り。
自分の住んでいる街を、香雪と毎日歩くようになって、知った匂いだ。

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今日はいつもより、長く歩いた。
少しでも長く、香雪と一緒に、この夕映えと金木犀の風に
包まれていたかった。

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いつも眠る時に、また明日遊ぼうね、という習慣がついてしまったのだが
ふとさっき、そう話しかけてみたら
あれ?まだ寝ないのに?と不思議そうな顔でこっちを見ていた。

金木犀の風がまた
窓を通りすぎる。

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