百合の香りに送られて

私が一番好きな花は、百合の花だ。
切り花がつぼみのままでも、最後の1つまで咲き切る、逞しい生命力。
そして何よりも、あの香り。
遠くにあってもその存在を示し、花束でもらっても、見るだけでなく、部屋の中をすみずみまで香りで満たしてくれる。もらった時の記憶まで鮮烈に残る。そう、、記憶を喚起してくれる、甘く、少し気怠い芳香。
花束に百合が入っていたときのライブの思い出は、やはり、鮮やかに残っていることが多い。
===
昨夜飛び込んできた、バンドメンバーからの電話。
音楽仲間の訃報。
その電話を受けたのは、自宅のベッドの上。
バルセロナ以降、特に先週のあまりに過激なハードワークで完全に体調を崩し、38度の熱が下がらなかったこの2日間。関節痛と筋肉痛が全身を襲い、全く起き上がれずに居た。
この間入っていたリハーサルも結局は飛ばすことになり、レッスンも飛ばし、研究所まで連日休んでしまって、本当に周囲に多大な迷惑をかけまくってしまっていたところへの、知らせだった。
KEN中島。ギタリスト。
彼の、ほとんどネイティブかと思わせるブルースフィール溢れる音は、古くから知っていて、イベントで一緒になったりはしたが、なかなか共演の機会が無かったところへ
昨年12月、私主催の歌ものセッションイベント”Meg & Friends Soul-Funk Jam”の第1回に、ふらりと遊びに来てくれた。


久しぶりの再会で、ステージ上で一緒にやるのは初めて。一音で観客の心と掴み、場を湧かせる彼のギターにうなり、これを機にまた何かやりたいね、と言っていたのに、結局これが、最初で最後の共演になってしまった。
===
午前中にもらった薬が効いて、少し身体は動くようになったけれど、まだ足下がふらふらしていた、が、、やはり最後の別れだけはしておきたくて、リハーサルを飛ばした端からバンドメンバーには申し訳無かったけれど、ほんの数十分だけ通夜に顔を出した。
斎場は、遺族の方の意向で、焼香は無く、代わりに祭壇に、五線が踊るように配置された、花の祭列。
白い手鞠菊、名を知らない水色の花
そして、その間を所狭しと埋め尽くした、白と黄色の百合の波。
会場には、むせかえるほどの百合の香りと、彼が1枚だけ遺したという、彼の名義のアルバムが、終始流れていた。
===
バルセロナへ行く前から、そして帰ってきてからも、ずっと頭を巡り続ける、【遺すべきもの】
彼が1枚しかアルバムを遺していないと聞いて、本当に惜しい、と思った。(※私の情報が乏しいのでもし他に遺しておられるのをご存知の向きがあったら教えてください)
ラフな音は沢山残っているだろうけれど。
流れていた曲で、知っている曲は無かった。オリジナルなのか、カバーなのかは知らない。
でも、そこにあったのは、まぎれも無く、”彼自身の音”だった。アコースティックギターをはじくように弾くアクセントの付け方も、程よく色気の効いたエレキの音も。歌い、時に静かに吠えるようなフレーズも。
12月のセッションに来てくれた時、彼が持っていたのはサンバーストのLes Paulだった。レスポールは、私が最も好きなギター。あの骨太い、男らしい音は、Les Paulにしか、そして、そのLes Paulを弾きこなす太いSOULを持った漢にしか、出せる音ではない。
===
これまで、多くの人を見送ってきた。早く逝った友人も沢山居る。早く逝ったら哀しく年がいってからの逝去が哀しく無いわけではない。どのような友人知人であっても、やはり別れは哀しい。
でも、若い頃よりも、よりそのことを冷静に受け止めている自分が居る。
より、いつか逝く日が自分にとって身近になっているからなのだろうか。これが、年齢、というものなのか。
終わりを考えない若者の頃には無かった想い。今の方が、自身の命が有限だという自覚、いつか終わる自身の命に対して、命がある間に何が出来るか、ということをより鮮明に考えるようになっているからだろうか。
あるいは、こうして何度も別れを繰り返して、やがて来る自分自身の、皆への別れを告げるときのために、備えているのだろうか。
===
百合の香りの中で、遺された彼の録音をしばし聞いていた。弾いている彼の表情が浮かぶような、いい録音だった。
そのような録音を、自分も遺したい。
私が遺すべきものは、音であり、声であり、
音楽だと、そう、思った。
武器は走りながら掴むがごとく、駆け抜けてきたこれまでの人生だけれど、これからは少し、ちゃんと、自分の想いを形にして遺す、ということに、取りかかりたいと思う。
それにしても、いくらなんでも、早過ぎる、KEN氏の早逝。
もっと遺したい音があったろうと思うと、悔やまれるが。
それでも、彼の音は、今日彼の周りを満たしていた百合の香りのように、ずっと、彼の音を聞き、共演した人々の記憶に、刻み込まれていくのだろう。
KEN中島。
享年、36歳。
合掌。

Follow me!